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多発性硬化症、視神経脊髄炎

主な神経疾患診療の解説

■疾患名

中枢神経系脱髄疾患

■概要

神経線維は電線の構造と似ていて、軸索(じくさく)と呼ばれる「芯」の周りを髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる「膜」が絶縁体のように覆っています。この髄鞘が炎症などにより壊れて中の軸索がむき出しになった状態を脱髄(だつずい)と呼びます。脳・脊髄・視神経は共通の髄鞘構造を有しており、一括して中枢神経系と呼ばれます。すなわち、中枢神経系脱髄疾患は、脳・脊髄・視神経に脱髄が生じ、神経の情報伝達がスムーズにいかなくなり様々な症状が出現する疾患であり、多発性硬化症や視神経脊髄炎関連疾患(視神経脊髄炎、抗MOG抗体関連疾患など)が含まれます。いずれの疾患も指定難病であり、医療費助成制度の対象となります。

  • 多発性硬化症(MS):中枢神経系の複数箇所に脱髄が生じ(これを「空間的多発性」と呼びます)、また再発性に生じること(これを「時間的多発性」と呼びます)が特徴の中枢神経系脱髄疾患です。詳しい原因は分かっておらず、診断の際には他の疾患の可能性を除外することが重要であり、その診断には専門的知識が要求されます。世界中で約250万人、日本で約2万人が患っており、20-30歳代の女性で特に発症しやすいことが知られています。原因不明でありながら、多くの治療薬が開発されており、治療成績は劇的に改善していますが、正確な診断を早期に得ることと、後遺症が蓄積する前に治療を開始することが極めて重要です。治療薬は、それぞれの効果と副作用を理解しつつ、ライフステージに応じた選択が求められます。
  • 視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD):MSに類似した再発を伴う中枢神経系脱髄疾患ですが、MSと異なり、主に血液中の免疫異常による自己免疫疾患であることが判明しています。またその名に反して、視神経・脊髄のみならず、脳に病変が生じることも珍しくありません。NMOSDは、血液中の抗AQP4抗体が陽性の視神経脊髄炎(NMO)と抗MOG抗体が陽性の抗MOG抗体関連疾患(MONEM)に大別されます。これら抗体の検出率は必ずしも高くなく、抗体が確認されない場合もNMOSDの一種と診断されることもあります。NMOSDの診断には抗AQP4抗体や抗MOG抗体の測定が必須ですが、健康保険の適用となっているのは一部の抗AQP4抗体測定法のみであり、正確な診断のためには研究レベルの抗体測定がしばしば必要となります。NMOSDはあらゆる年代で発症しますが、NMOは中年女性に多い一方、MONEMは男性や小児にもしばしば発症します。2000年代前半まではMSとNMOSDは区別されていませんでしたが、かつてMSと呼ばれていた患者さんの約2割はNMOSDであったと推定されています。とりわけNMOはここ数年で急速に治療薬が開発されており、治療成績が劇的に改善することが期待されています。

■症状

中枢神経系脱髄疾患の病変は脳・脊髄・視神経のどこに脱髄が生じるかによって、様々な症状が出現します。また脱髄の場所によっては必ずしも自覚症状がないことがあります。起こりうる症状として以下のようなものがあります。

  • 視神経の症状:視力の低下(暗くなる、ぼやける)、視野の異常(見えない場所がある)、眼痛(目を動かすと痛い)などの症状が出現します。これらの症状の多くは片眼性ですが、ときに両眼同時に生じます。
  • 脊髄の症状:運動症状(手足の麻痺、つっぱり)、感覚症状(手足のしびれ、感覚低下、痛み、帯状の締めつけ感)、膀胱直腸障害(排尿排便がうまくいかない、失禁失便してしまう)などの症状が出現します。
  • 脳の症状:運動症状、感覚症状に加えて、失調(まっすぐ歩けない)、複視(ものが二重に見える)、構音障害(呂律が回らない)、吃逆(しゃっくりが止まらない)、嘔気(胃腸は正常なのに気持ち悪さがとれない)、傾眠(極端な眠気)、精神症状(集中力の低下、疲れやすさ、抑うつ)などの症状が出現します。MONEMではしばしばてんかんのような痙攣を伴うことがあります。

発症様式は、急性(急に症状が出現する)ないし亜急性(数週間かけて症状が悪化)のことが多く、自然経過で症状が回復する(これを「寛解」と呼びます)ことも珍しくありません。また夏場や入浴時の体温上昇により症状が一過性に悪化する(これを「ウートフ兆候」と呼びます)ことや、頸の曲げ伸ばしで手足などにしびれが走る(これを「レルミット兆候」と呼びます)などが出現することもあります。NMOSDでは発熱などの感冒(先行感染)やワクチン接種などの数日から数週後に症状が出現することもあります。

■診断

中枢神経系脱髄疾患の診断のためには下記のような検査を行います。

  • 神経診察:問診により自覚症状の確認に加えて、神経内科専門医による診察により、自覚していない症状も含めて神経系の異常を精査します。なお、視神経の診察は神経眼科診察に長けた眼科専門医に依頼し、眼底評価や中心フリッカー値測定検査などを行い評価します。
  • MRI:脱髄している箇所がしばしば「白く」映るため、病変の広がりを確認します。造影剤を使用して撮影すると、炎症が生じている新しい病変では造影効果が得られるため、古い病変との区別が可能です(造影剤は妊娠可能性がある場合や、喘息の患者さんでは使用できません)。専門家がMRIを読影すると、病変の広がりや形によってある程度診断を絞り込み、また発症からの経過を推測することが可能です。
  • 血液検査:NMOSDの診断に必須である抗AQP4抗体と抗MOG抗体の測定を行います。またその他の自己免疫スクリーニングを同時に行い、併存疾患(特に甲状腺に対する自己免疫)がないかを評価します。NMOSDでは血液検査でしばしば異常が検出されますが、MSでは正常のことも多いです。
  • 脳脊髄液検査:中枢神経系に炎症が生じていることを間接的に評価するため、脳や脊髄が浸かっている液(脳脊髄液)を採取して分析する検査です。局所麻酔をした上で、腰から細い針を刺して少量採取します。MSでは中枢神経系に限局した炎症の証拠として、オリゴクローナルバンドと呼ばれる異常を検出することが多く、その炎症の程度を示すIgG indexが高値であると病状の進行が早いことが知られています。MONEMの一部では血液中では抗MOG抗体が検出されないため、脳脊髄液中の抗MOG抗体を測定することもあります。
  • 誘発電位:MRIで病変が確認できない場合などに行います。脱髄による神経伝導の異常を電気的に検出する検査です。自覚症状がなくても異常が見つかることがあります。

以上の検査結果を踏まえ、MSはMcDonald診断基準、NMOSDはIPND診断基準に照らし合わせて診断を確定します。悪性疾患との鑑別が困難な場合などには、脳神経外科専門医や整形外科専門医に依頼し、脳や脊髄の生検(手術により部分的に採取し顕微鏡的に調べること)を行うことがあります。

■治療

中枢神経系脱髄疾患の治療は、再発時に炎症を抑え込む治療(急性期治療)と、寛解期に再発を予防する治療(慢性期治療)に区別されます。慢性期治療はMSとNMOSDで大きくことなり、また誤った治療により再発を招く恐れがあるため、正しい診断と治療法の選択が重要です。

急性期治療(MS・NMOSD共通)
  • ステロイドパルス療法(IVMP):ステロイド(メチルプレドニゾロン)の大量点滴静注療法のことです。副腎皮質が生理的に合成している量の数百倍に相当する、1日1,000~2,000mgのステロイドを3~5日間連続で点滴静注します。ステロイドには中枢神経系に入り込んだ白血球などを弱らせて炎症を抑える効果があります。従って症状の悪化を止めることを目的としており、この治療により必ずしも脱髄による症状が改善するわけではありません。効果が乏しい場合は繰り返し行う場合もあります。
  • 血液浄化療法(PP):自己免疫の種類によってはステロイドの有効性が乏しい場合があります。この場合、主に血液中の免疫物質を強制的に除去するため、人工透析用の機械を用いて血液を浄化します。健常人の輸血製剤で置き換える血漿交換療法、特殊なカラムによって免疫物質を除去する血漿吸着療法などさまざまな方法がありますが、比較的太い血管に脱血用の針を留置することが必要です。多くの場合はIVMPを繰り返しても効果が得られない場合に実施します。
  • 免疫グロブリン静注療法(IVIG):健常人の輸血から得られた正常な免疫物質(抗体)を大量に投与することで、免疫状態を改善させることが期待される治療です。1日数時間の点滴を5日間連続で実施します。本治療はIVMPを行っても効果が得られない視神経炎に対して有効性が確認された比較的新しい治療法です。特に抗AQP4抗体陽性のNMOの患者さんに実施されます。
慢性期治療(MS)

慢性期治療は、再発予防を目的とした病態修飾療法(DMD)と対症療法からなります。ここではDMDについて説明します。

世界的には10種類以上のDMDが開発されていますが、日本で承認されているのはこのうち6種類(7薬剤)です。これらDMDの作用機序はそれぞれ異なっており、効果の強弱は一概に比較できませんが、より多くの患者さんに有効性が確認されているDMDと、限られた患者さんに有効なDMDがあり、いわば「ストライクゾーン」の広さが異なると考えることができます。一般に「ストライクゾーン」が広いDMDほど副作用に注意が必要です。また薬剤によって内服・皮下注射・点滴と投与方法に違いがあり、その種類によっては胎児に影響を及ぼすことがあるため、ライフステージに応じて選択し、必要に応じて切り替えることが重要です。

DMDを正しく選択し開始すること以上に困難であるのは、それが有効であることを正確に判断し、副作用を十分に監視することです。再発がないことは重要ですが、再発がなくとも病状が悪化することもあるため、入念な神経診察や定期的なMRIにより悪化がないことを確認することが求められます。また副作用により重篤な後遺症を遺したり、致命的となることもあるため、十分な知識と経験を有した専門医による治療が望まれます。

  • インターフェロンβ(ベタフェロン®・アボネックス®):最も長い歴史を持つDMDです。ベタフェロン®は2日に1回の皮下注射製剤、アボネックス®は週1回の筋肉注射製剤で、それぞれ患者さん自身で注射できる専用注射器がキット化されています。投与初期に発熱を認めることが多い製剤です。抑うつ傾向のある方や他の自己免疫疾患を併発している方はそれらが悪化する可能性がありお勧めできません。長期投与により皮下に「しこり」などが生じたり、中和抗体により効果が減弱することがあります。
  • グラチラマー酢酸塩(コパキソン®):二番目に長い歴史を持つDMDです。1日1回の皮下注射製剤で、こちらも患者さん自身で注射できる専用注射器がキット化されています。比較的副作用が軽いことが特徴ですが、稀に一過性の息苦しさや動悸などが生じることがあります。インターフェロンβと同様に相対的には「ストライクゾーンが狭い」薬剤のため、効果判定をしっかり行うことが肝要です。
  • 1日2回、1カプセルずつ内服する経口薬です。投与初期に胃腸障害が出現しやすく、少しずつ量を増やす(漸増する)ことや、空腹で内服しないこと(できれば食事の途中で内服すること)などの対処が必要です。その他、皮膚の発赤などが出現しやすいことが知られています。投与中はリンパ球数が減少するため、定期的な血液検査が必要です。
  • フィンゴリモド(ジレニア®・イムセラ® ):我が国で開発された経口薬で、1日1カプセル内服します。ジレニア®とイムセラ®は販売元が異なるのみで同一薬剤です。いわば「ストライクゾーンが広い」薬剤ですが、投与初期に脈拍が減少するため短期間の入院が必要です。帯状疱疹、肝障害、視力障害(黄斑浮腫)などの副作用に注意が必要であり、催奇形性のため妊娠希望者にはお勧めできません。脳にウイルスが感染し重篤な後遺症を遺したり致命的となる進行性多巣性白質脳症(PML)の報告があり、投与中は慎重な観察が必要です。
  • ナタリズマブ(タイサブリ®):原則として4週間に1回、1時間程度の点滴を病院で受ける薬剤です。日本で使用できるDMDでは最も「ストライクゾーンが広い」と考えられています。フィンゴリモド同様にPMLが生じ得ることが最大の副作用であり、その他の目立った副作用はありません。血液検査(JCV index検査)を行うことにより、どの程度のPMLリスクがあるかを予測しながら使用することが可能です(JCV indexの値により0.01~2.8%の幅があります)。当院ではPMLリスクをさらに低減するために投与間隔を延長するなど対策を講じ、PMLを早期に発見するために数ヶ月ごとのJCV index測定とMRI検査を実施しています。
  • シポニモド (メーゼント®):本剤のみ進行型MSに対するDMDであり、一定程度症状が進行した患者さんに用いられます。1日1カプセル内服する経口薬です。フィンゴリモドに類似する作用機序を持つため、同様の副作用に注意が必要です。導入時の入院は必ずしも必要ありませんが、最低6時間の心電図モニターが必要です。体内から消失する時間が早いため、飲み忘れないように注意が必要です。
慢性期治療(NMOSD)
  • ステロイド(プレドニゾロン):1日1~2回に分割し内服します。自己免疫疾患に広く用いられている薬剤であり、用量を増やすほど、白血球を弱らせて自己免疫を抑える効果は高くなりますが、易感染性、耐糖能異常(糖尿病)、胃潰瘍、骨粗鬆症などの副作用もあり、また満月様顔貌(ムーンフェイス)や肥満の原因となります。一般にNMOSDにおいては15mg/日以上では再発は少ないものの、10mg/日以下では再発が増える傾向にあります。当院では15mg/日以上を約6ヶ月以上継続した後、再発がないことを確認しつつゆっくり慎重に漸減し、できるだけ低用量での維持を目指しています。
  • 免疫抑制剤(未承認):ステロイドが副作用のため継続困難であるか、減量により容易に再発する場合において、2019年までは他に有効な薬剤が無かったため、しばしば免疫抑制剤が使用されてきました。免疫抑制剤にはさまざまな種類がありますが、そのうちアザチオプリン(アザニン®・イムラン®)、タクロリムス(プログラフ®)、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®)が特に頻用されてきました。NMOSDにおける効果が科学的に検証されておらず、副作用による脱落例も多いことが問題でありました。2019年以降、抗AQP4抗体陽性のNMOについては科学的に有効性が担保されている薬剤が登場していますので、今後はこれらに置換されていくものと考えています。
  • エクリズマブ(ソリリス®):抗AQP4抗体陽性のNMOに対する点滴製剤で、2週間に1回、30~40分程度の点滴を病院で受けます(投与初期のみ週1回点滴が必要です)。抗AQP4抗体の病原性は「補体」と呼ばれる免疫物質によって活性化されており、エクリズマブはこの補体を抑制する薬剤です。再発抑制効果は極めて高く、従来の治療にエクリズマブを追加すると再発リスクは約94%減少し、これら患者さんの年間再発率は0.02(再発は約50年に1回)に抑えられたとする結果が得られています。ただし、補体を抑制するために、髄膜炎菌などの感染症が増加することが報告されており、導入前には髄膜炎菌ワクチンを接種するほか、発熱時の対応などしっかりとした知識を付けることが求められます。
  • サトラリズマブ(エンスプリング®):抗AQP4抗体陽性のNMOに対する薬剤で、4週間に1回皮下注射をします(投与初期のみ1~2週毎の皮下注射が必要です)。抗AQP4抗体などの自己抗体を産生する過程で必要な免疫物質(IL-6)の働きを阻害する薬剤です。従来の治療にサトラリズマブを追加すると再発リスクは約74~79%減少しました。これら患者さんの年間再発率を0.11(再発は約9年に1回)に抑えたとする結果が得られています(ただしこの数値には効果が乏しかった抗AQP4抗体陰性例を含んでいます)。IL-6が阻害されると、感染症罹患時に熱や倦怠感、炎症反応(血液検査におけるCRP増加)が生じにくくなるため、サトラリズマブ投与中は呼吸困難になって初めて肺炎に気付くなど、感染症の発見が遅れて重症化する可能性があります(特に結核感染がないことは投与開始前に確認する必要があります)。また類薬では高コレステロール血症の報告があるため注意が必要です。
  • イネビリズマブ(承認申請中):日本では承認申請中の薬剤で、米国では抗AQP4抗体陽性のNMOに対して承認済です。半年に1回、約1.5時間の点滴を病院で受けます(投与初期のみ2週間間隔での点滴が必要です)。抗AQP4抗体などの自己抗体の産生などを担うリンパ球(B細胞)を除去する薬剤です。上記の2剤とは異なり、従来の治療への追加ではなく、イネビリズマブ単独により再発リスクを約73%減少させました。薬剤によるアレルギー反応が生じやすいため、点滴ごとにステロイドなどを前投薬する必要があります。利便性は高いものの長期に渡り作用が持続するため、尿路感染症などの感染症に注意が必要で、また事前に結核やB型肝炎感染がないことを確認する必要があります。

■生活上の注意

中枢神経系脱髄疾患の特徴として、体温の上昇により一過性の症状増悪が認められやすいため、住環境の調整が必要です。診断や治療内容により注意事項が異なるため、主治医より十分な説明を受けてください。特に妊娠やワクチン接種などに影響する薬剤が多いため、とりわけこれらの事項については主治医と事前に相談してください。

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