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パーキンソン病

主な神経疾患診療の解説

■疾患名

パーキンソン病

■概要

パーキンソン病は中脳の黒質にあるドパミン神経細胞が何らかの原因で少なくなり、身体の運動の調節などに関係しているドパミンという物質が不足することにより発症します。1817年にイギリス人外科医であるJames Parkinsonが初めて報告し、その名前にちなんでパーキンソン病と呼ばれるようになりました。パーキンソン病はアルツハイマー型認知症に次いで頻度の高い神経変性疾患で、運動の不調をきたす神経変性疾患としては最も多いです。日本では人口10万人あたり100~150人と推定され、全国に20万人程度の患者さんがいると推定されています。50~65歳に発症することが多いですが、高齢になるほど発病率が増加するため、今後も患者さんの数が大幅に増えることが予想されています。欧米では男性に多いのですが、日本では女性に多い病気です。典型的な症例では運動緩慢、振戦(しんせん)、筋強剛(きんきょうごう)、姿勢反射障害などの運動症状と様々な運動以外の症状(非運動症状)がみられます。病理学的には、主に中脳の黒質や大脳基底核と呼ばれる部分の神経細胞に変性が見られ、神経細胞の数の減少と、αシヌクレインというタンパク質からなるレビー小体の蓄積が見られます。これはパーキンソン病に特徴的な病理所見ですが、発生機序についてはまだ解っていません。

■症状

パーキンソン病にみられる代表的な4つの症候は、運動緩慢、振戦、筋強剛、姿勢反射障害です。近年、これらの運動に関係した症状に加え、様々な非運動症状(精神症状、自律神経障害、感覚障害、睡眠障害など)を呈することも明らかになりました。非運動症状の中には運動の不調をきたす前から認められる症状(うつ、便秘、嗅覚障害、レム睡眠行動異常症)もあり、パーキンソン病の早期診断という観点からも注目されています。しかし、これらの症候が全ての患者さんでみられるわけではなく、症状や経過に個人差が大きい病気です。多彩な症状を呈するため、病気の初期には脳神経内科ではなく総合内科、精神科、整形外科など他の科を受診する患者さんも多くいます。

運動緩慢・無動

動作が遅くなり、運動の幅や量が減ってしまう症状です。症状がより高度になった状態を無動といいます。歩行・起き上がり・立ち上がり・寝返りなど様々な日常動作が障害されます。例えば、歩くのが遅くなったり、歩幅が小さくなったり(小刻み歩行)、食事動作、着脱衣、寝返りなどに支障をきたすことがあります。瞬きが少なく、仮面をかぶっているような表情のない顔つき(仮面様顔貌)、小声で単調な抑揚のない話し方になります。以前に比べて字が下手になり、文字が小さくなる(小字症)ことや、症状の進行に伴い食事の咀嚼(そしゃく)や飲み込みが遅く下手になるなどの症状がみられることもあります。

振戦(しんせん)

手、足、顎や頸部、体全体などに起こる「ふるえ」のことです。左右どちらかにより強いのが一般的です。ふるえがみられる病気は多くありますが、パーキンソン病のふるえは、安静にしていて動作をしていない時に強くふるえ、動作をすると軽くなったり、消失したりするのが特徴です。丸薬を丸めているような指の動きが特徴です(pill rolling tremorと言います)。振戦を認めないパーキンソン病の方もいます。

筋強剛(きんきょうごう)

筋肉の緊張が高まっている状態で、関節を曲げ伸ばしした際に抵抗を感じ、固く感じられます。例えば、診察室で医師が患者さんの腕を肘のところで曲げたり伸ばしたりした時に抵抗を感じます。カクカクと歯車のように抵抗を感じることもあれば、鉛の管を曲げるように一定の抵抗を感じる時もあります。手足だけではなく、頸部や胴体部分にも出現します。

姿勢反射障害

人間の体は、倒れそうになると倒れないために姿勢を反射的に直す反応が備わっています。しかし、パーキンソン病患者さんでは、前方や後方に軽く押されただけで体勢を立て直せずに突進したり倒れたりしてしまうことがあります。転倒による怪我の原因になってしまいます。通常、病気の初期には認めず、他の症状にて発症してから数年経過した頃にみられるようになります。

歩行障害

歩行が遅く、歩幅が狭く、自然な腕の振りが減ってしまいます。膝を曲げ前屈みの姿勢で小刻みに歩きます。また、足がなかなか前に出ない(すくみ足)、歩き出すと早足となってしまい止まることができない(加速歩行)といった症状がみられます。すくみ足は歩き始めや方向転換時に強く出やすく、歩幅にあった横線などの模様をまたぎながら歩くとスムーズに足がでるようになることがあります。

姿勢異常

筋緊張のバランスの障害、筋強剛、筋力低下、固有感覚の障害などにより、比較的病初期から前傾姿勢、進行期には腰曲がり、首下がり、斜め徴候といった姿勢異常が目立つようになります。

精神症状

抑うつ、アパシー(やる気の欠如)、不安、パニック発作がみられる場合があります。抑うつ症状が病初期から強く、精神科を最初に訪れることもあります。病気の進行期には幻覚(特に幻視が多い)、妄想、認知機能障害を認めることもあります。また、病的賭博や性行動亢進、買い物依存、過食などの行動制御障害が出現することもあります。

自律神経障害

色々な自律神経症状が出現します。便秘が最も多い症状ですが、排尿障害(頻尿が多い)、起立性低血圧(立ち上がった際に血圧が下がってふらつく)、発汗過多、インポテンスなどの症状があります。

感覚障害

嗅覚障害、痛みが出現することがあります。嗅覚障害は高頻度で認められる症状ですが、患者さんは自覚していないことも多く、検査をして初めて気づくことも多いです。

睡眠障害

不眠、日中の眠気、むずむず脚症候群、レム睡眠行動障害(寝ている最中に大声を上げる、手足をバタつかせる)など多彩な症状が出現します。日中の眠気、突発的睡眠(予兆なく突然寝入ってしまう)はパーキンソン病自体の症状であると共に、パーキンソン病に対する薬の副作用で出現することもあります。

■診断

臨床所見(症状)、画像所見、治療の効果などから総合的に診断されます。
臨床所見は運動緩慢、振戦、筋強剛、姿勢反射障害などの運動症状、多彩な非運動症状の存在を参考にします。また、以下の画像所見が診断に有用な場合があります。

頭部CT検査、頭部MRI検査:

パーキンソン病は頭部CT検査、頭部MRI検査で特異的な異常が“ない”のが特徴です。似た症状を呈する病気では特徴的な異常を呈するものも多く、それらの病気との鑑別のためには有用です。慶應義塾大学医学部神経内科では先進的MRI撮像法、解析法を用いることでパーキンソン病の診断、病態把握に有用なMRI所見の探索を研究テーマの一つとしています。

MIBG心筋シンチグラフィー検査:

ノルアドレナリンと同様に交感神経に取り込まれるので、交感神経がしっかり心筋に存在しているかがわかる検査です。パーキンソン病では多くの症例で心臓への集積が低下します。ただし、発症して間もない方や振戦が強いタイプの方では低下がみられない例もあり、時に臨床症状とあわせ、慎重に評価する必要があります。

DAT スキャン:

ドパミンを含む神経線維が線条体と呼ばれる場所でどの程度障害を受けているかを評価できる画像検査です。パーキンソン病では線条体への集積が低下します。

L-dopa製剤やドパミンアゴニストなどの抗パーキンソン病薬といわれる薬で、明らかな症状の改善がみられることもパーキンソン病の大切な所見のひとつです。
以上を参考にして診断を行いますが、症状の個人差が大きく、非典型的な症例では病初期には診断に迷うケースも少なくありません。

■治療

1. 薬物療法

治療は、内服薬による治療が主体で、症状を軽くして、日常生活を過ごしやすくすることを目指すものです。内服治療をしっかりと続けることで、症状を改善することが可能で、健康な方とほぼ同じように生活できることを目標とします。パーキンソン病は神経変性疾患の中でも最も多くの薬剤が開発されています(表-1)。パーキンソン病は脳内のドパミンが不足してしまう病気ですので、不足しているドパミンを補うことが治療の中心になります。薬ごとに作用、役割が異なりますので、症状に応じて適切な薬を選んで治療を行っていきます。薬を長期間飲み続けていると副作用が出ることもありますが、さまざまな工夫により調整が可能です。主治医または薬剤師の指導に基づき、しっかりと薬を飲み続けることが大切です。患者さんは自分がのんでいる薬の特徴、必要性を知っておくことが望ましく、主治医または薬剤師に気がねなく相談することをお勧めします。 また、最近は内服薬だけでなく皮膚貼付剤(貼り薬)や皮下注射薬も使用されています。

表-1.パーキンソン病に対する主な薬剤

L-dopa/DCI合剤 レボドパ/カルビドパ
レボドパ/ベンセラジド
ドパミンアゴニスト 麦角系 ブロモクリプチン
ペルゴリド
カベルゴリン
非麦角系 プラミペキソール
ロピニロール(貼付剤も有)
アポモルヒネ(注射製剤)
ロチゴチン(貼付剤)
COMT阻害薬 エンタカポン
オンジェンティス
MAO-B阻害薬 セレギリン
ラサギリン
サフィナミド
ドパミン遊離促進薬 アマンタジン
ドパミン賦活薬 ゾニサミド
アデノシンA2A受容体拮抗薬 イストラデフィリン
抗コリン薬 トリヘキシフェニジル
ビペリデン
ノルアドレナリン前駆体 ドロキシドパ
2. 外科治療(デバイスを用いた治療)

病気の進行に伴い、症状の日内変動(薬が効いている時間と効いていない時間で症状の差を感じる)、薬がよく効いている時間に体がクネクネと動いてしまう(ジスキネジア)といった症状が出現することがあります。内服薬での調節が難しくなった場合、このような症状に対して外科治療(デバイスを用いた治療)を行うことがあります。

脳深部刺激療法 deep brain stimulation: DBS
脳の神経核(視床下核、淡蒼球、視床)に電極を留置し、高頻度刺激を行うことで神経核の細胞活動を調整する治療で、日本では2000年に承認されました。

L-dopa/カルビドパ配合経腸用液療法(Duodopa®)
ゲル状にしたL-dopa/カルビドパ水和物配合剤をPEG-J(胃瘻チューブと似たもの)を通して直接腸に持続投与する治療です。専用の注入ポンプを用いて一定速度で空腸に投与することで、症状の日内変動を軽快することができます。日本では2016年に承認されました。

■生活上の注意

パーキンソン病で不足するドパミンは楽しいことを考えたり、やっている最中に自然と放出されると言われています。そのため、日常生活では、外出したり、ご家族や友人との会話、趣味やレクリエーションなどを楽しんだりして積極的な生活を送ることが大切です。ただし、薬の効きが悪く体が動きにくい時には、怪我をしないためにも無理をしないようにしなければなりません。患者さんはパーキンソン病という病気、そしてご自身の状態をよく理解する必要があります。薬の効果がとても良い時間と効き目が悪い時間帯が出てくることもあります。その日の体調、気持ちの状態でも症状は変化します。これらも含めてパーキンソン病を良く理解することが重要です。家族の方にもパーキンソン病を良く知っていただき、患者さんの介護にあたる必要があります。パーキンソン病は、症状が進行すると、申請により公的支援を受けることができます。治療の内容によっては症状が比較的軽くても公的支援を受けることができる場合があります。詳しいことは、担当医や最寄りの保健所・福祉窓口に相談されることをおすすめします。

■その他

当院神経内科では、月・火・金の午後にパーキンソン病の専門外来を行っています。また、火曜日午前の初診医(関講師)がパーキンソン病を専門としています。

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