認知症
主な神経疾患診療の解説
■疾患名
認知症
■概要
「認知機能」という言葉は記憶、計算、時間や場所の認識、注意、言語機能、眼で見た情報の処理、理解、判断能力など幅広い能力を含んでいます。認知症とは、「一度正常に発達した認知機能が障害され社会生活に支障を来している状態」を指します。あくまで認知症は疾病(病気)であり、加齢に伴って出現する生理的な(病気ではない)もの忘れとは異なるものです。
■症状
以下のような症状があった時には年齢相当のもの忘れではない病的な認知症を疑う場合がありますので受診を御検討ください。
- ものをどこに置いたか分からなくなり見つけてもそこに置いた記憶がない。
- 約束事や仕事の予定を忘れてトラブルになることが増えてきた。
- お薬の管理が急に不規則になり飲んだり飲まなかったりが増えた。
- 最近のニュースが全く挙げられない。
- いないはずの動物や人、子供が見える(それらが実際にいるのかいないのかを巡って家族と見解が食い違う)。
- 怒りやすさが増したり感情の起伏が目立つようになった。
- 単語の意味が分からなかったり、発語が減ったりしている。
■診断
認知機能を評価するための詳細な心理検査のほか、血液検査、頭部MRI(または不可能な場合にはCT)検査、脳血流SPECT検査、脳波検査などを組み合わせて診断を進めて参ります。初診の後にこれらの検査を行い、概ね2回目の受診の際にその段階での診断と治療方針を決定していきます。
■各疾患ごとの症状と治療
- アルツハイマー病:アミロイドとタウ蛋白と呼ばれる特殊な蛋白が脳に蓄積することにより神経細胞が障害され、本来の老化よりも早く神経細胞が減ってしまい進行性に認知機能が低下する疾患で認知症の原因として最も患者さんの多い疾患です。細胞が減り始めた当初は無症状ですが、次第にもの忘れの症状が出てきて(この段階を軽度認知機能障害と呼びます)、後に社会生活に支障を来した段階になるとアルツハイマー型認知症(認知症段階)に至ります。40歳代以降広い範囲の年齢で発症しますが、65歳以上で多くなります。とはいえもの忘れのある高齢の方皆様がアルツハイマー病というわけではありません。昔のことはよく憶えているのに新しい情報が憶えられない、同じことを何度も聞き返す、などの症状が出た場合に疑われます。進行期には強い不安から「財布を盗まれた」などの「物とられ妄想」や意欲の低下など精神症状(BPSD)を伴うこともあります。早期より診断し、必要に応じてドネペジル、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミンなどの薬物療法と併せて認知症ならではの患者様への接し方を検討することでご家族様との良い関係を維持しBPSD出現を予防するための診療が効果を奏します。
図1.アミロイドイメージングによる検査結果
アルツハイマー病患者さんではアミロイド(赤い部分)が脳内に蓄積している。 - 脳血管性認知症:脳梗塞や脳出血の後遺症として起こる認知機能低下のほか、高血圧症のコントロールが不良なことなどによる脳の微小血管の損傷などで起こります。症状は脳の損傷部位によっても異なりますが、高血圧症をベースとした脳の微小血管損傷などの場合には怒りやすさなどの性格変化を来すことも多く、そうした症状の薬物的コントロールが必要になる場合もあります。
- レビー小体型認知症:脳にα-シヌクレインという蛋白が蓄積し、小さい子供や動物の幻視(幻覚)、寝ている間に夢の内容が行動化される/大声を出すなどの「レム睡眠行動障害」、調子のよいときと悪い時で大きく変動する認知機能などを特徴とします。また手足の動きが鈍くなり転びやすくなる、表情が乏しくなるなどパーキンソン病と共通した症状を呈することも多く、認知機能や幻覚のコントロールとパーキンソン病様症状の双方のバランスを考えた薬物治療が必要となります。
これらの他、前頭側頭葉変性症、神経原線維変化型老年期認知症、嗜銀顆粒性認知症などの特殊な蛋白が蓄積する神経内科疾患、正常圧水頭症のような手術で治療する脳神経外科疾患、神経感染症、甲状腺機能異常やうつ病など他疾患など区別すべきものが数多くあります。神経内科と精神科が協力して開設しているメモリークリニックではこれらの診断を含む認知症の総合的な診療を行っております。