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産学連携

慶應-バイオジェン・ジャパン株式会社共同研究
-フマル酸ジメチルの髄鞘再生誘導効果に関する研究-

多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)は中枢神経系の炎症性脱髄疾患です(多発性硬化症)。その病態として、再発と寛解を繰り返すことが特徴的です。その詳しい発症様式はいまだ解明されていませんが、寛解の過程で脱落した髄鞘がしばしば再生されることが知られています。しかしながら、MSの慢性化と共に髄鞘再生力は低下し、脱髄軸索がそのまま残存するようになってしまうと、徐々に寛解が不十分となってしまいます。髄鞘は単に跳躍伝導に必要であるばかりでなく、軸索の栄養供給源としての機能をも有することから、慢性脱髄によって不可逆的な軸索障害とそれに引き続く神経変性を招くことになります。MSの予後を改善させるためには、既存の病態修飾薬(disease modifying drugs; DMD)の適正使用のみならず、髄鞘再生を惹起し、脱髄病巣を減ずることが肝要であると考えられます。

本邦で保険適用であるDMDの一つであるフマル酸ジメチル(dimethyl fumarate; DMF; テクフィデラ®(バイオジェン・ジャパン株式会社))の作用標的には、神経炎症、神経変性及び有毒な酸化ストレスが内包されており、抗酸化作用を呈するNrf2の活性化がその主たる機序であると考えられています。DMFの臨床試験の結果から、DMFはMSの臨床的再発及び障害進行を強力かつ持続的に抑制する効果を有することが示されており、特に新規発症MS患者の障害進行抑制に強い効果を示しています。

一方で、通常使用されているMRI撮像方法であるT2強調画像は髄鞘再生を可視化することができず、髄鞘特異性が低いために実臨床に応用することは困難でした。そうした背景の下、2016年に慶應義塾大学の研究者らにより、実臨床に応用可能な、髄鞘特異性の高い撮像法が開発され、q-spaceミエリンマップ(qMM)法と命名されました。既にフィンゴリモド(ジレニア®)投与下のMS患者における髄鞘再生をqMMで観察できることが報告されています。

そこでわたしたちはバイオジェン・ジャパン株式会社と協力し、DMFの臨床試験の結果で示された臨床的な効果と髄鞘動態の関連を評価するために、DMF投与中のMS患者におけるqMM上の変化の解析を開始しました。DMFが髄鞘再生に与える影響を解析することは極めて重要であり、MS患者の長期予後を改善するためのDMD選定に示唆を与えるものとなり得ると考えています。

現在慶應義塾大学病院に通院中のMS患者のうち、DMFによる治療を開始される患者を対象とした前向きコホート研究を行っております。なお、既にDMFによる治療を開始されており、qMM評価歴のある者については後向き及び前向きコホート研究を行い、これらデータを併せて解析しております。

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